>   >   >   >   >   >  コラム詳細

コラム

2014-05-16

内容が複雑すぎる遺言は無効になることも?

 遺言をするには、ある程度の判断能力(遺言能力)が必要となります。民法961条は「15歳に達した者は、遺言をすることができる。」と定めています。なぜ「15歳」なのかというと、もともとは、明治時代に作られた昔の民法では、婚姻適齢が男性は17歳、女性は15歳であったことから、その低い方に合わせたとされています。

 晩婚化の進んだ現代の感覚では、17歳や15歳で結婚というと早すぎるようですが、江戸時代以前では、男性なら元服して髪型、服装や名前を変え、女性なら日本髪の髪形を変え、お歯黒を付け、眉を引き、それぞれ大人として扱われる年齢でした。そこで、明治時代に制定された民法でも、この年齢を婚姻適齢としていたわけです。そして、17歳や15歳で結婚できると定めた以上、実際に結婚をして家庭を構えている未成年者も当然存在するので、状況により遺言をしなければならないこともありうるというのが、その理由です。なお、戦後の民法では、婚姻適齢は男性が18歳、女性が16歳に引き上げられましたが、遺言能力については15歳のまま引き継がれています。

 ところで、未成年者が自動車の売買やアパートの賃貸などの法律行為をする場合には、その法定代理人の同意を得なければならないとされています。そして、民法では20歳をもって、成年としています。つまり、売買契約や賃貸契約などの法律行為を単独で行うには、原則として20歳以上であることが必要であるのに対し、遺言は15歳以上であれば可能となっています。その理由としては、未成年者が遺言を作成する場合は、法定代理人といえども代理して行うことができないこと、遺言の効力は遺言者の死後に発生するので、未成年者の財産を保護するための制度(制限行為能力者制度)をそのまま適用する必要がないこと、遺言による財産処分では、第三者の利益を害するおそれがないことがあります。

 同じように、成年被後見人や被保佐人、被補助人についても、本人が単独で遺言の作成を行うことができ、代理人による遺言の作成は認められません。ただし、物事を理解する能力(意思能力)は必要ですので、成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時に遺言をする場合には、それを証明するために医師2人以上の立ち会いがなければなりません。

 このように、遺言の作成については、法律行為を単独で行う能力(行為能力)は要求されてはいませんが、物事を理解する能力(意思能力)は必要とされております。そのため、例えば認知症の方が意思能力のない状態で遺言をしても、それは無効となります。

 実際には、遺言をした時の能力の有無を巡って、裁判になることもしばしばあります。判例では、遺言能力の有無は、「遺言の内容、遺言者の年齢、病状を含む心身の状況及び健康状態とその推移、発病時と遺言時との時間的関係、遺言時と死亡時との時間的間隔、遺言時とその前後の言動及び精神状態、日頃の遺言についての意向、遺言者と受遺者との関係、前の遺言の有無、前の遺言を変更する動機・事情の有無等、遺言者の状況を総合的にみて、遺言の時点で遺言の内容を判断する能力があったか否かによって判定すべきである」とされています。

 したがって、例えば遺言が「全財産を妻に相続させる」的なシンプルな内容である場合と、複雑な内容である場合とでは、遺言者に求められる判断能力のレベルも異なってきます。判例では、「遺言者の意識状態はかなり低下し、思考力や判断力を著しく障害された状態にあったと認められる場合に、本件遺言の内容がかなり詳細で多岐にわたることを併せ考えれば、遺言者がその意味・内容を理解・判断するに足るだけの意識状態を有していたとは到底考えがたい」として、公正証書遺言でありながら無効とされた例もあります。

 ところで、弁護士や行政書士が遺言の文案作成の依頼を受けることは、よくあることですが、我々法律家は、得てして複雑な文案を作成しがちになります。確かに、依頼人から報酬を得ている以上、あまりシンプルな文案は作成しにくいのも事実です。しかし、遺言者の真意を文案に反映させることは当然ですが、判断能力についても考慮して文案を作成しないと、上記の判例の様に遺言自体が無効になりかねないので、注意が必要です。もっとも、遺言は判断能力が衰える前に、きちんと準備しておくことが望ましいのは言うまでもありませんが。

この記事を書いたプロ

金沢みらい共同事務所(森司法書士・行政書士事務所) [ホームページ]

司法書士 森欣史

石川県金沢市小金町8番16号 万石ビル3階 [地図]
TEL:076-251-5982

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
著書
相続百人一首

 発売日は2015年1月8日(木)、出版社は文藝春秋です。定価は1300円(税別)です。 遺産相続に関する様々なトラブルを100のテーマに分類し、短歌に...

 
このプロの紹介記事
森欣史 もりよしふみ

遺産相続で失敗しない秘策を伝授(1/3)

金沢みらい共同事務所の司法書士、行政書士である森欣史さんは、遺産相続手続きや遺言書作成支援のプロ。失敗しない相続について解説したブログやメルマガのファンも多い相続手続きのスペシャリストです。出身は愛知県名古屋市。横浜の大学を卒業してから...

森欣史プロに相談してみよう!

北陸放送 マイベストプロ

遺産相続に関する分かりやすい説明と的確な業務処理が強み

会社名 : 金沢みらい共同事務所(森司法書士・行政書士事務所)
住所 : 石川県金沢市小金町8番16号 万石ビル3階 [地図]
TEL : 076-251-5982

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

076-251-5982

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

森欣史(もりよしふみ)

金沢みらい共同事務所(森司法書士・行政書士事務所)

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
遺産相続に関する書籍を上梓(出版)します!
イメージ

 このたび、私、森欣史は、1月8日に、遺産相続に関する書籍を文藝春秋より上梓(出版)することになりましたの...

[ お知らせ ]

遺産相続争いは、一部のお金持ちの問題か?
相続百人一首

 近年、相続の発生件数の増加や国民の権利意識の高まりから、「遺産相続争い」や「借金の相続」など、相続に関す...

[ 遺産相続争いの実態 ]

子のいない夫婦で夫が亡くなると、遺産相続で妻が苦労する?

 前回は、子供のいない「独身の」高齢者が遺言をせずに亡くなると、相続人は兄弟姉妹やその代襲相続人になる可能...

[ 遺産分割協議の不能編 ]

独身の高齢者が亡くなると、誰が遺産を相続するのか?

 今回からは、「遺産分割協議の不能編」に入ります。具体的には、ある方が亡くなって遺産相続が開始したのですが...

[ 遺産分割協議の不能編 ]

先祖のお墓を守るなら財産を譲るという内容の遺言は有効か?

 負担付遺贈では、負担により利益を受ける者(受益者)については特に制限はなく、遺言者の配偶者や子などの相続...

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ