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コラム

2014-10-17

先祖のお墓を守るなら財産を譲るという内容の遺言は有効か?

 負担付遺贈では、負担により利益を受ける者(受益者)については特に制限はなく、遺言者の配偶者や子などの相続人でも、第三者でも構いません。また、「社会福祉法人に毎月一定額を寄付する」というように、受益者を法人にすることもできます。さらに、「私の遺産をすべて遺贈するので、その財産の一部を遣って私のためのお墓を建てて下さい」というように、遺言者自身を受益者にすることもできます。しかし、新たにお墓を建てるということでははく、自分や祖先の葬儀・法要を主宰して欲しい、先祖代々の墓を守っていって欲しいということになると、話は少し違ってきます。

 神々や祖先を祭ることを「祭祀(さいし)」と言います。また、祭祀に必要な系譜(家系図など)、祭具(位牌、仏壇、仏具、神棚、神具)、墳墓(墓碑、墓地)のことを「祭祀財産(さいしざいさん)」といいます。祭祀財産の相続については、一般の相続財産とは切り離され、祖先の祭祀を主宰すべき者が単独で承継することとされています。そのため、祭祀財産は共同相続や遺産分割協議の対象にはなりません。なぜなら、祭祀財産を複数の相続人同士で共有したり分割したりすると、後々、法要などの祭祀を催す際に支障をきたす恐れがあるからです。また、祭祀財産には原則として相続税は課税されず、相続放棄をしても祭祀財産の承継者になることができます。

 祭祀財産の承継者は、以下の順序で決められます(民法897条)。
1.被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する(指定は必ずしも遺言でなくてもよく、口頭でもよい)。
2.指定がないときは、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。
3.慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が定める。

 ちなみに、被相続人による指定がなく、慣習もはっきりしないが、家裁では決めたくないような場合に、相続人らの合意のみで祭祀財産の承継者を決めることができるかについては、判例でも「できる」というものと「できない」というものに分かれています。しかし、実情としては、そのように決めているところも多いものと思われます。

 なお、祭祀財産の承継者となるための資格については民法上特に制限はなく、長男はもちろん長女でも二男でも、氏の異なる甥や姪でも、さらには親族以外の人でも可能です。また、祭祀財産の承継者は原則として一人ですが、特別の事情があれば祭祀財産を分けて承継させたり、祭祀財産を複数の承継者で共同して承継したりすることも可能です(判例)。

 では、遺言の話に戻りますが、「財産を遺贈するので、その代わりに、私の死後の祭祀をすること」という内容の遺言の効力は、どうなるでしょうか?

 判例では、遺言者が受遺者に建物2棟を遺贈するという内容の公正証書遺言で、その末尾に「遺言者が死亡した後の遺言者の祭祀は受遺者にお願いする」と記載されていた事案において、「このように祖先の祭祀を主宰する者と指定された者は、死者の遺産のうち系譜、祭具、墳墓のように祭祀に関係あるものの所有権を承継することがあるだけで、それ以上の法律上の効果がないものと解すべきである。」という判断を下しています。

 その理由ですが、この場合の受遺者は、亡くなった遺言者から「道徳的・宗教的な希望を託されたのみ」であり、祭祀を営むべき「法律上の義務を負担するものではない」こと、受遺者が祭祀を行うかどうかは「その人の個人的信仰や徳義に関すること」であり、これをしないからといって「法律で強制することはできない」ことをあげています。

 つまり、負担付遺贈の負担とは受遺者に対して「一定の法律上の義務」を課すものであり、法律上の義務とは言えないものや法律上強制できないものは、負担として課すことはできないということです。

 したがって、結論としては、このような遺贈は「負担付遺贈ではない単なる遺贈」なので、受遺者はたとえ祖先の祭祀を怠っていたとしても、建物2棟の遺贈を受けることができ、これとは別に遺言者の祭祀財産の「所有権だけ」を承継することになります。そして、これに対し相続人は、受遺者が祖先の祭祀を怠っていることを理由にして、家庭裁判所に遺言の取消しを請求することはできないことになります。

 しかし、実際には、戦前の家督相続のように「先祖代々のお墓を守ること」や「位牌や仏壇を引き取ること」を前提に、例えば長男に遺産の多くを承継させたいという声は、特に地方を中心に根強くあると思われます。したがって、このような場合には負担付遺贈で祭祀の承継者を指定するのではなく、生前にその候補となる人とよく話し合った上で決めておくのが大切だと思います。

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